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チャイナ・レポート(Web版)

「政府活動報告」の注目点(2020年7月1日号掲載)

ジェトロ・アジア経済研究所 上席主任調査研究員 田 中 修

 5月22日から28日にかけて、全人代が開催され、「政府活動報告」(以下「報告」)が承認された。ここでは、報告の中から2つの注目点を述べてみたい。

1 成長率目標について
 報告には明記されなかったが、手掛かりはある。
 2020年に2010年のGDPを倍増する目標の達成見込みについて、国家発展・改革委員会の何立峰主任は、5月22日の記者会見で、「2020年GDPは、今年1%しか成長しなければ、2010年の1・91倍となり、3%成長すれば1・95倍となり、5%成長すれば1・99倍に接近する。1人当り所得は、もし1・75%増加すれば、予期目標を実現できる」と説明している。
 ところで、財政報告によれば、2020年度の財政赤字は3兆7600億元とされている。これを今年の財政赤字の対GDP比率の下限とされている3・6%で割ると、2020年のGDPは104兆4444億元となり、2019年のGDPから計算すると、2020年の名目成長率は「5・4%以下」と想定されていることが分かる。
 消費者物価(CPI)は「3・5%前後」と想定されているが、工業生産者出荷価格(PPI)は国際原油価格の下落によりマイナス傾向にあるので、GDPデフレーターは3・5%より低くなる可能性がある。また、1人当り所得を倍増するには1・75%成長が必要だとしていることからすれば、これを最低ラインとし、現時点では実質1・75%~2%程度の成長を念頭に置いていると考えられる。

2 景気対策の規模
 李克強総理は、6月1日の座談会で、財政赤字1兆元増と、疫病対策特別国債1兆元の計2兆元の資金は、主として、中小・零細企業、個人工商事業者、出稼ぎ農民、非正規雇用者、一般サービス業従業員等の低所得層、貧困家庭・失業者・最低生活保障対象者等の困窮大衆のために用いるとしており、2兆元のうち、投資に用いられるのは一部と考えられる。
 これに対し、特別地方債の増加分1・6兆元は、その多くが重大プロジェクトや新しいタイプの都市化建設に用いられるものと見られる。中央予算内投資は若干の増であるが、道建設資本金を1000億元増やすので、これは鉄道建設資金に用いられることになろう。
 以上を総合すると、投資の増加は2兆元を若干超える程度となり、これに、減税・費用引下げ2・5兆元増を加えた計4・5兆元が、財政による景気刺激策の規模ということになろう。
 リーマンショック時の景気対策は、2008年11月から2010年12月にかけて4兆元の追加投資が行われたが、1年の財政面での対策総額でみれば、今回はリーマンショック時の規模を大きく上回っている。しかし、2019年のGDPは、2008年の3倍以上になっているので、経済規模に対する対策規模は比較的抑制されている。
 さらに、マクロ政策についても、報告は「持続可能性を考慮し、情勢の変化に応じて見直してよい」とし、投資についても、「優良なプロジェクトを選定し、後遺症を残さないことにより、投資に持続的に効率・収益を発揮させる」と、安易な投資拡大にクギをさしている。
 これらからすると、今回の対策規模は、後年度負担やマクロの債務比率とのバランスを考慮しながら慎重に検討されたものといえよう。
 とはいえ、今回の対策で政府の債務は確実に増加する。加えて易綱人民銀行行長は、5月26日のインタビューで、「今後銀行はかなり大きく不良債権比率が上昇する可能性がある」としており、マクロの債務比率の上昇は避けられない。
 李克強総理も、全人代終了後の記者会見で、「バラマキはしない」としながらも、対策が行き過ぎれば、バブルを形成し、利鞘稼ぎや、どさくさに荒稼ぎをしようとする者が出てくことを認めている。今後のマクロ政策は、四半期ごとの内外経済動向を見ながら、慎重な運営が求められることになろう。


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