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チャイナ・レポート(Web版)

共同富裕の推進(2021年11月1日号掲載)

ジェトロ・アジア経済研究所 上席主任調査研究員 田 中 修

 習近平総書記は8月17日、党中央財経委員会を開催し、共同富裕の着実な促進を検討した。
 会議は「共同富裕は人民全体の富裕であり、人民大衆の物質生活・精神生活がいずれも富裕になることであり、少数の人の富裕ではないし、ばっさり画一的な平均主義でもなく、共同富裕を段階的に促進しなければならない」とする。「画一的な平均主義」とは、毛沢東時代の「皆等しく貧しい」状態を指すのであろう。

 また、「『2つのいささかも揺るがない』を堅持し、『公有制を主体とし、多様な所有制経済の共同発展』を堅持しなければならない」とする。「2つのいささかも揺るがない」とは、①いささかも揺るぐことなく公有制経済を打ち固め、発展させなければならない、②いささかも揺るぐことなく非公有制経済の発展を奨励し、支援し、導かなければならない、というものである。最近「共同富裕」にかこつけて、民営の巨大IT・不動産企業やそのトップへの批判が集中している。しかし、「共同富裕」は決して民営企業の否定を意味しないことを、ここで明らかにしているのである。

 9月16日に開催された中国国際中小企業博覧会・中小企業国際協力サミットフォーラムにおいて、劉鶴副総理は「中国政府は社会主義市場経済の改革方向を変えぬことを堅持し、対外開放の基本国策を変えぬことを堅持し、『2つのいささかも揺るがない』を変えぬことを堅持し、非公有制経済の発展を奨励・支援・誘導する大きな政策方針を変えぬことを堅持し、中小企業の健全な発展を引き続き大いに支援し、民営経済の健全な発展を断固支援する」と強調した。

 最近、劉鶴総理は、機会あるごとに市場化改革・対外開放・民営企業支援の堅持を繰り返している。それだけ「共同富裕」を口実に、改革開放批判・民営企業の退場を主張する左派の勢力が再び強まっているのであろう。劉鶴副総理は習近平総書記の経済ブレーンと言われており、彼の発言は、習近平指導部の意思を代表しているものと思われる。

 また、会議では「一部分の人が先に富むことを認め、先に富んだ者が後の者の富裕化を牽引・援助し、『勤勉な労働、合法な経営、大胆な起業』で富んだ者が人々を牽引することを、重点的に奨励しなければならない」とし、鄧小平の「先富論」を引き続き認めている。

 所得分配については、「第1次分配・再分配・第3次分配が協調し組み合わさった基礎的な制度手配を構築し、税制・社会保障・移転支出等の調節を強化し、かつ精確性を高め、中等所得層のウエイトを拡大し、低所得層の所得を増やし、高所得を合理的に調節し、違法所得を取り締まり、中間が大きく両端が小さいオリーブ型の分配構造を形成しなければならない」とした。高所得者については、「高すぎる所得を合理的に調節し、高所得層と企業が社会に更に多くリターンを行うことを奨励しなければならない」とする。これを受けて、芸能人等の脱税摘発が強化され、民営大企業及びそのトップは批判をおそれて、次々に慈善団体へ巨額の寄付を行っている。

 しかし、「共同富裕」の推進は、第1次分配、再分配、第3次分配の順に制度を整備するのが筋であろう。まず労働報酬を高め、社会保障を充実し、低所得層のボトムアップを図る。次に、個人所得税の累進制を強化し、不動産税と累進的な相続税・贈与税を導入する。税制を厳しくしたうえで、慈善組織に巨額の寄付を行った企業・個人には税制面での優遇を与えるのである。

 芸能人・民営企業家叩きは、庶民のうっ憤をはらすには有用であるが、既に左派からは第2の文化大革命発動の声も出ている。手順を誤れば、改革開放そのものを否定し、発展の道も閉ざしかねない。

 習近平総書記は、会議において「共同富裕は長期目標であり、プロセスが必要であり、一足飛びにはできない。その長期性・困難性・複雑性を十分推し量ってしっかり取り組み、休んでも急いでもいけない。我慢強く一件一件取り組んで実効を高めなければならない」と述べ、まずは、浙江省で共同富裕モデル地区を建設し、各地方は土地の事情に応じて有効な方法を模索しなければならないとした。指導部も共同富裕に時間がかかることを認めているのであり、民営企業によるイノベーションの芽をつまぬよう、関連政策の慎重・着実な推進が求められる。


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