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中国労働事情レポート(Web版)

都市化率引上げと農民工の問題解決を目指して 〜第18期5中全会を終えて〜

在中国日本国大使館経済部二等書記官(連合派遣) 三橋 沙織

 中国共産党は10月26日〜29日に第18期中央全体会議(5中全会)を開催し、「国民経済と社会発展の第13次5カ年計画制定に関する中国共産党の中央の建議」を審議・可決、2020年までに全面的に小康社会(ややゆとりのある社会)を建設することを目標に、次の施策を打ち出しました。

 ①経済の中高速度での成長を保ち、社会のバランスと包容性と持続可能性を高めるという基礎の下で、2020年までに国内総生産及び都市と農村住民の平均収入を2010年の2倍とすること。②産業は中高程度の水準に邁進し、消費の経済成長に対する貢献を明らかに増大し、戸籍人口の都市化比率の上昇を加速、農業現代化において、明らかな進展を得て、人民の生活水準及び質を普遍的に高めること。③我が国の現行の基準で農村貧困人口の貧困脱却を実現し、貧困県はすべてそのレッテルをはがし、一部地域の全体貧困を解決すること。④国民の素質及び社会文明の程度を明らかに高める、生態環境の質を全体的に改善すること。⑤各方面の制度を更に成熟させ、提携し、国家のガバナンスの体系及び能力の現代化において大きな進展を得ること。
 これらは何れも農民工と関係が深いと言えますが、今回は都市化率の引き上げに関し、中国の都市化と農民工の関係について書きたいと思います。

1、現在、農民工の絶対数はなお増加しており、都市(城鎮)居住人口で見た都市化率は上昇を続け、2014年には54.8%に達しました。他方、都市戸籍を有する人口比率は35.9%とほぼ横ばいです。この乖離19%弱にあたる約2.6億人が、都市戸籍を持たず都市で居住している農民工、いわゆる「半都市(城鎮)民」です。昨年3月に中国政府が発表した「国家新型城鎮化計画(2014〜2020年)」では都市化目標として、都市居住比率を60%、戸籍率を45%まで高め、両者の乖離幅を縮めること、そのために更に1億人の農業人口を都市部に移転させ、既に都市で居住している農民工も併せて都市戸籍を付与していくことが掲げられています。。

2、改めて都市化の定義を考えてみると、都市化のもっともシンプルな定義は総人口に占める都市人口の割合です。中国政府はこれまで、積極的に都市化を推進しませんでしたが、経済自由化に伴い都市部で出稼ぎ労働者が大量に必要になったため、農民工の出稼ぎが条件付きで認められ、改革開放以降、労働集約型製造業の発展に呼応する形で実質的な都市化が前進しました。
 中国にとり、都市化とは一部の農村住民を都市部に移住させ、農民工に対する様々な差別を撤廃することを意味しなければなりませんが、改革開放以降の受動的な都市化では出稼ぎ労働者の待遇が改善されず、農民工に対する差別もなかなか撤廃されてきませんでした。

3、習近平政権が誕生してから、李克強総理は繰り返し都市化の推進を強調しています。先進国での都市化は産業の高度化に伴い、農村の余剰労働力を都市部に移住させ、その労働力を農業から工業、そして、サービス業へシフトさせることにより産業全体の生産性の向上を促進させることを意味しています。一方で中国では、農村は戸籍管理制度により都市部と隔離され、農民工の移動の自由が制限されています。今後、農民工の移動を妨げる戸籍管理制度を緩和して都市化を推進していくことは、経済成長を押し上げる原動力となるかもしれません。

4、中国では低賃金労働力者として無尽蔵に供給されてきた農民工が経済発展を支えてきました。しかし「国家新型城鎮化計画」の中でも、この単純労働力の調達が困難化しており、更に、技能労働者が決定的に不足していることが問題視されています。産業構造の高度化が後手に回り、未だ労働集約型産業の労働力需要が旺盛である反面、新世代の若い農民工は学歴の向上や意識の変化等から単純労働に就きたがらず、一方で、農民工の多くは技能訓練未経験者で素質は低いままという状況です。農村余剰労働力の適切な移転を図り、産業構造の転換、生産性の向上を目指すという「新型城鎮化」の文脈において、「技能・技術」を農民工に習得させることは非常に重要なことになるでしょう。

5、今後、都市化の推進による経済成長の牽引が期待されています。生産性の低いセクターから生産性の高い産業セクターへの人的資源のシフトが、経済成長に繋がると考えられています。また、同時に上述したように、農民工が職業技術を向上することは中国の成長にとって必要不可欠であり、都市化と同時に更に推進されていくことになると思われます。中国は、今後短期間で都市化を進めていく必要がありますが、そこにはリスクが伴います。労働者、とりわけ農民工にとっては大きな変革のときが訪れることになることと思います。

※文中データは2014年 農民工動態調査報告より引用。
※本稿に含まれる見解はすべて筆者の個人的な見解であり、所属組織の公式見解を示すものではありません。

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