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中国労働事情レポート(Web版)

中国における労働市場・労働政策等の動向

2021年12月 在中国日本国大使館 経済部 労働担当

 中国については、距離的に近い国ながら、その実、日本にいるとなかなか実際の状況が分からない日本人の方は多いのではないだろうか。かつて未だ発展途上だったイメージから、昨今では日本にいる日本人から時には「日本は中国にすっかり追い越されてしまったのか。」と質問を受けるなど、中国が発展してきたと感じる日本人も多くなったように思う。中国は、ご存じのとおり、現在の最大の人口国であり、面積も広大であり、画一的に発展したか否かを論じることは難しいと思う。
 そうした中国の実態の一端を知っていただくべく、本稿では、中国の労働市場等の動向について御紹介したい。


1 中国における労働市場の動向

(1)直近の雇用失業情勢

 中国における直近の雇用失業情勢について、都市調査失業率は、新型コロナウイルス感染症の発生に伴う悪化により2020年2月をピークとし、その後,2020年末頃にはコロナ以前の水準まで回復した(2021年11月の都市調査失業率は5.0%(原数値))。
 もっとも、若年者の失業率は高水準であるなどの課題も抱えている(2021年11月の16~24歳都市調査失業率は14.3%(原数値))。なお、若年者の失業率が全体平均と比べて高いのは、各国共通であり、必ずしも中国だけが突出して高いわけではない。

(2)労働力の需給状況

 中国における中長期的な労働力需給状況については、15~64歳人口は2013年をピークに減少を始め、就業者数も2014年をピークに減少に転じている。その減少速度も年々小幅ながら拡大している。
 しかしながら、直ちに全体として労働力不足の状況に転じるかというと、そういうわけではない。その理由は、農業等の第一次産業の就業者数の減少である。農村から都市に労働力が供給され、都市部の就業者数や第三次産業の就業者数は長期的に一貫して増加が続いている。

 
データ出所:国家統計局ウェブサイト「国家数据」、「年度数据」の指標「就業人員和工資」


 
データ出所:国家統計局ウェブサイト「国家数据」、「年度数据」の指標「就業人員和工資」



 労働力の質的な変化としては、大学卒業生が年々増加するなど高学歴化の進展である。普通高校への進学率のほか、特に普通大学への進学率は大きく近年上昇した。また、大学院の修士課程や博士課程の修了者数も着実に増加を続けている。
 こうした中で、中国政府は大学生等に合った新たな雇用を都市部に創出しなければならないと強い課題意識を持っているように見える。一方で、工場で働く技能労働者の不足が多く指摘されている。中国政府は、こうした状況を指して、よく「求職難と求人難が併存」していると表現しており、求人と求職のミスマッチを解消するため、技能労働者の地位の向上を促そうしているほか、労働者の技能向上のための職業訓練などの充実を図ろうとしている。

(3)年齢別・性別の労働参加率

 中国の労働力人口比率は、日本と比べ、全般としては男女とも大きく異ならない水準であるが、やはり高齢者層では日本よりも労働力人口比率は低い。少子化に伴い労働力人口が減少する中で、高齢化に対応して高齢者の就業を促進していくことが、中国が労働力人口を維持していくための1つの鍵になりうる。
 また、かつての「一人っ子政策」を転換し、出産規制を段階的に緩和するに伴い、企業が女性の採用を避ける傾向が出現してきているとの声も聞く。女性を含め、出産・育児の段階にある夫婦が仕事と家庭を両立できるような環境を整備していくことも、就業率の維持に当たって鍵となる可能性があるだろう。

(4)世界における位置づけ

 賃金水準も年々上昇している。かつて、賃金の安さに着目して日本企業をはじめ世界から企業が集まったが、そうした「世界の工場」としての位置づけから、14億人の消費者を有する巨大な「世界の市場」へと変貌しつつあると指摘する声は多い。
 中国の人口は少子化及び高齢化ともに進行しており、その速度は日本よりも速いと指摘する声もある。少子高齢化も「世界の工場」としての性格を薄める変化を後押しするだろう。なお、例えば、コロナ前に中国よりも高い成長率で経済成長していたタイやベトナムなども、中国と同時期あるいは少し遅れて少子高齢化が進んでいくと言われており、少子高齢化の進展は中国だけの現象ではない。

(5)地域間の労働力移動等

 中国では、都市と農村を区別して捉えるのが一般的である。実際の発展状況も異なるし、戸籍制度上も農村か都市かによって様々な区別がある。かつて、中国ではほとんどの国民が農村戸籍であったが、2020年時点で、農村戸籍の者は55%まで減ってきている(都市戸籍は45%)。加えて、農村戸籍の者であっても都市に居住することは可能であり、実際の常住地としては、63.9%の者が都市に住んでおり、この都市常住人口も年々増加している。上記に加えて、農村が発展し、行政区分上、都市に切り替わることもあり、このように全体として「都市化」が速いスピードで進み続けていると表現されるのが中国の現状である。
 また、人の流れは、かつては農村から都市への出稼ぎが多かったが、最近では、3線~4線都市の戸籍を持つ者が1線~2線都市に常住するケースが多くなったとの専門家の指摘もある。あわせて、農村戸籍保有者であっても、都市に住んでいる者は自分がその都市の地元民であると考えている割合は微増傾向が続いている。春節(旧正月)になると、「農民工」と呼ばれる農村戸籍保有者で都市に出稼ぎに出ていた者が大量に帰郷し、春節明けに再度新しい仕事を探す、という中国に特徴的な現象は薄まっていく可能性も示唆される。
 また、北京、上海、深圳、広州といった特別に大きい都市では労働力の確保が困難になってきているとの声が聞かれる。要因として指摘されるのは、高い住居費である。当然状況は人によってマチマチであるが、例えば、他の都市から若者が働きにやってきても、給与の半分を賃料につぎ込まざるを得ず、手元にほとんどお金が残らず、夢破れて地元に帰っていくという話も聞く。一方で、北京や上海等の地元民は住居を所有しているほか、不動産価格の上昇にも伴い多額の資産を有している者もおり、肉体労働はたとえ給与が高くても避け、給与が低くても楽な仕事を選ぶ傾向にあると言われている。これは、かつて都市-農村間の物価差による出稼ぎにおいては、外地から北京や上海に来る者の方が相対的に低い賃金でも仕事を担っていたのとはむしろ逆の現象を生じさせている。

(6)地域ごとの労働力人口の動向

 中国は、人口が多く、面積も広大であり、地域による状況差も大きいと言われることが多い。以下の図では、中国の各省・直轄市・自治区(以下「省等」という。)における、2000年から2010年,2010年から2020年にかけての労働力人口の増減率を図示した(注)。なお、ここでは15~59歳人口を労働力人口とした。

 
※常住人口ベース
※「2000年→2010年」は2000年をベースとした2010年までの増減の百分率、「2010年→2020年」は2010年をベースとした2020年までの増減の百分率
データ出所:第5次、第6次、第7次人口センサス調査の数値から増減率を算出。



 まず全体の傾向について、以前の10年(2000年→2010年)では労働力人口が増加していたのが29省等、減少が2省等であった。一方、直近の10年(2010年→2020年)は増加が9省等、減少が22省等に上った。
 直近10年の省等ごとの動向については、人口増加率が+10%以上だったのが、西蔵(チベット)自治区、広東省,新疆ウイグル自治区、浙江省,海南省の5つである。減少率ワースト4は、東北3省(黒竜江、吉林、遼寧)と内モンゴル自治区であった。
 また、以前の10年(2000年→2010年)と直近の10年(2010年→2020年)の増減率が大きく変化した省等について、プラス方向に変化したのは重慶市と貴州省の2つのみであった。一方で、マイナス方向に大きく変化したのは、順に、北京、上海、天津であり、いずれも増減率が50%以上減少した。中国のこうした都市では交通渋滞,不動産価格の高騰など「都市病」に悩まされていたことから、人口を合理的に削減される方向の政策が採用されている。

(注)中国では、直近3回は2000年、2010年、2020年に人口センサス調査を行っている(日本の国勢調査のような人口に関する全数調査)。


2 労働政策等の動向

(1)中国政府の5カ年計画

 中国政府(国務院)は、2021年3月、政府の基本計画となる第14次の5カ年計画を策定した。労働政策の関連するトピックスは以下のとおり:

○労働政策・年金政策
ア 法定退職年齢の段階的引上げ
イ 賃金の集団的協議システムの積極的な推進
ウ 派遣労働者に関する行為の規範化、労働者の同一労働同一賃金の確保
○その他関連分野
エ 製造業比重の基本的な安定を保持
オ 移転人口の市民化(戸籍制度改革、常住人口に対する公共サービス提供確保 等)
 上記アについて、中国では現行法令上は、法定退職年齢と年金支給開始年齢が一致しており、今後一体的に検討されることが見込まれる。計画では、少しずつ調整すると規定されており、政府関係研究機関のインタビュー等では、1年に数ヶ月分または数ヶ月に1ヶ月分、年齢(月齢)を引き上げていくとの案が披露されている。中国政府は記者会見等において世界の主要国等はいずれも定年が65歳以上になっていると紹介しているが、仮に65歳まで定年を引き上げるのであれば、数十年かけて引き上げていくことになる。
 上記イについて、中国では団体交渉権を明示的に規定した法制度はなく、今後、法制度上規定することにも踏み込むのかどうかが注目点の1つである。また、本項目は、居民収入増加のルート拡大の文脈に位置づけられている。人民の所得増加は、「共同富裕」や中所得層拡大・国内消費拡大といった主要政策課題にとっても重要である。人民の収入水準向上に当たっては、労働分配を主体とし、多種の分配方式の併存を確保し、一次分配における労働報酬の比重を高めること等が基本方針とされている。労働報酬の比重を高める主要な手段の1つが団体交渉を通じた賃上げになり得るところ、今後、この点をどこまで実効性のある形で推進するかも注目点の1つといえる。
 オについて、戸籍制度改革は、常住人口500万人以下の都市は戸籍制限を撤廃・全面緩和し、500万人以上の都市は戸籍付与のルールを改善しつつも戸籍制限を維持すると謳っている。あわせて、その土地の戸籍を有しない常住人口に対しても、一定条件下で「居住証」を交付し、戸籍保有者と同様に義務教育や住宅保障等の公共サービスを提供することを規定した。なお、中国の教育制度も日本と同じ6・3・3・4で中学校まで義務教育であるが、高校以上の教育についても戸籍保有者と同等に扱うとする施策までは盛り込まれなかった。

(2)その他の政策

 上記のほか、労働分野に関連する大きな動きとしては3点ある。
 1つは、インターネットプラットフォーム経済で働く労働者には該当しない就業者の保護施策の推進である。
 もう1つは、3人の子どもを出産することを認める政策の実施の決定であり、2021年8月には出産に関連する政策についても方向性が発表された。具体的には、一部地域での育児休暇制度の試行、育児に優しいことをCSRの重要分野とし、雇用主に弾力的な働き方等の取組を奨励すること、適時に休暇・勤務時間に関する現行の政策・規定を修正改善することが公表されている。
 その後、育児休暇については既に一部地域で年間5日程度の有給休暇制度がスタートした。今後、企業による有給の短期間の休暇ではなく、行政が一定の所得保障制度を用意した上で、日本のような1年~数年単位の育児休暇制度が創設されるのか否か注目が集まる。
 その他、工場等で働く技能労働者不足を念頭に、2021年3月には、高校段階における職業教育と普通教育の比率をほぼ同等に保つとの通知が発出された。

3 終わりに

 かつての中国では、労働問題というと、いわゆる「改革開放」政策以降、農村から都市に出稼ぎにくる「農民工」と呼ばれる人々が増え、その人たちに関わる賃金未払いや労働紛争といったイメージが強かったものと思う。現在でも、中国における労働政策の位置づけとして、こうした問題が社会の安定に与える影響を防止するという点は引き続き大きいように見える。
 一方で、中国共産党及び政府の文書でも、労働の成果を大切にせず、働きたくない・働き方を知らない若者がいる点が指摘されている。2021年には「寝そべり族」という向上心がなく、仕事や結婚などにも消極的な若者を指す言葉が生まれ、インターネットで話題となった。こうした現象は未だ一部の若者に過ぎないのかも知れないが、共産党が発行する「求是」という雑誌に習近平国家主席が寄稿した文章でも「『寝そべり』を防止すべき」という点が言及された。労働分野に関して、社会の安定だけでなく、社会の活力に与える影響への関心が高まりつつあると言える。
 また、上述の通り、「共同富裕」だけでなく、中所得層拡大・国内消費拡大といった経済政策上でも労働分配率の向上は重要な位置を占めており、中国政府の掲げる「質の高い発展」を進める上で、労働政策が経済政策的な性格を強めてきているように見える。
 中国における様々な労働市場・労働政策の変化を捉えるに当たって、本稿が何らかのヒントとなれば幸いである。

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